ラファエスルハウス青少年支援センター
(Raphaelshaus Jugendhilfezentrum)



ラファエスルハウス青少年支援センターとは

 ケルンの北、約15kmのドーマゲン(Dormagen)という町にある「ラファエスルハウス青少年支援センター」は、1902年に設立され、2005年12月現在で約240人の子どもたちが在籍していました。そこでは、親から虐待を受けたり、登校拒否や親の育児放棄、問題行動を起こした6歳から18歳までの子どもたちが、指導者と共にグループ単位で共同生活を送っています。子どもたちは、敷地内の学校、あるいは近隣の公立学校で教科の学習を行うと共に、様々なセラピーを受けたり、乗馬や水泳、園芸、キャンプなどの課外活動を行うことにより、自立した生活が送ることができるようになることを目指しています。運営はカリタス(CARITAS)と呼ばれるキリスト教の団体によってなされており、子どもたちの費用は州政府の青年局(Jugentamt)から支払われているとのことです。

 約8年前に同施設で研修を受けたのですが、今回再び訪れる機会を得ることができました。子どもの数は8年前の約160人から、約1.5倍になっていました。
スタッフのScholtenさんは、特に親からの虐待が増えていると言っていました。またADHDなどの軽度発達障害の子どもたちも含まれるようになってきたとのことです。

 敷地の一角に厩舎、屋内馬場、放牧場があり、20頭近くの馬やロバが飼われていますが、そのうち子どもたちの乗馬に使われるのは8頭です。他にも2頭のラクダ、3匹のラマがいます。

 ここで行われている乗馬プログラムは、心理・教育的なアプローチとして行われる「特殊教育軽乗・乗馬(Heiledagogisches Reiten / Voltigieren)」であり、240名の子どものうち、約70名が週に1回乗馬を行っています。専門のスタッフは4名で、うち3人が乗馬指導、1人が馬の飼育管理を専門としています。また大学の実習生や、兵役の代わりに社会的活動を選んだ青年など4人が様々な仕事の補助をしていました。

 乗馬レッスンのスケジュールは以下の表のようになっていますが、その中のグループレッスン、および個別レッスンの様子を取り上げ、指導の実際を述べたいと思います。
 

敷地内に事務所や学校、グループ
ホーム、体育館、馬場などがそろって
います。
ここは子どもたちが勉強する学校。
多くの場合、少人数(6〜8人程度)で
授業が行われています。
馬の放牧場です。朝になると放牧場
に放し、使うときに子どもたちが連れ
てきます。
馬用のウォーキングマシーン。日本でも
乗馬クラブなどで見かけますが、ここに
あったのはとても大きかったです。休日
の馬の運動などに使われていました。
厩舎です。この建物の奥に屋内馬場
があります。
庭付きの馬房。 ラクダの真正面の顔、って何だか
マヌケ・・・?モンゴルのラクダなの
で寒さにも強いとのこと。
白いのがお父さんラマ、一番奥がお母さんラマ、まん中にいるのが子どもラマです。


乗馬のスケジュール

午前 午後
個別レッスン×2 グループレッスン×3
スタッフの乗馬レッスン グループレッスン×3
グループレッスン×2 グループレッスン×3 グループレッスン(外部の子どもたち)
個別レッスン×2 グループレッスン×3
個別レッスン×2 個別レッスン   ×3(外部の子どもたち)   
グループレッスン×2(外部の子どもたち)

*各レッスン90分

グループレッスンの様子1

 ここでの乗馬のほとんどはグループで行われます。水曜日の午前中のグループレッスンは、男の子2人(11歳・9歳)と女の子1人(7歳)の合計3人。そしてこのレッスンにかかわるのは、乗馬指導専門スタッフのホルトマン先生と、実習でここに来ている学生2名です。
 
 まず最初は厩舎内にある部屋に入り、その日のレッスン内容についての話し合いをします。屋内馬場で乗るか、外に散歩に行くか、どの馬に乗るかを、スタッフと一緒に決めていきます。このことを通して、自分の意見を言うこと、他者の意見を聞くこと、そしてみんなの意見を大切にしながら一つのことを決めていく方法を学んでいきます。この日は天気が良かったため、外に散歩に行くこと、2頭の馬と1頭のロバを使い、途中で乗る馬を交代することになりました。
 
 子どもたちは自分が担当する馬を、放牧場から厩舎まで連れてきます。A君が乗ることになったウィニーというポニーは、つかまえられそうになると素早く逃げていきます。困ったA君はホルトマン先生に相談。先生がポケットから取り出したのは秘密兵器?のエサ。そのエサを使ってウィニーをつかまえたA君はとても嬉しそうな顔をして、厩舎まで連れて行きました。先生がつかまえてしまうのではなく、適切な援助をして子どもにチャレンジさせることで、子どもたちが達成感を重ねていくことができるよう工夫されています。

 厩舎内には、壁に馬をつなぐための輪が取り付けられており、そこにつないでブラシがけや蹄のそうじをします。棚からそれぞれの馬専用のブラシを取ってきて、子どもたちは手際よくブラシをかけていきます。さっき逃げ回っていたウィニーもいったんつながれるととてもおとなしくしていました。C君は、1人で蹄の裏のそうじをすることは難しいのですが、先生はそうじがしやすいように蹄を持ってあげていると、てっぴと呼ばれる道具を使って丁寧に蹄のそうじをしていました。

 馬具をつけ準備ができると、いよいよ馬(ロバ)に乗ります。それぞれの馬(ロバ)に先生か学生がマンツーマンでつき、敷地内の散歩に出発です。敷地内といってもかなり広く、3〜40分くらいかけてのんびりと散歩します。曲がり角に来るたびに、3人が順番に「右・左・まっすぐ」を決めることで、コースが決まっていきます。こうした場面を設定していくことで、子どもたちは自己決定の機会を得て、意欲的に参加することを学んでいきます。

 3頭の中で一番小さなウィニーは少し遅れがち。そこで横についていた学生が「ちょっと走ってみる?」と提案。A君は「うん」と答え、初めて速歩に挑戦しました。最初は常歩とは違う揺れに緊張した面もちでしたが、次第に慣れてくると、自分から「走ってもいい?」と聞いていました。また、大きめの馬に乗ったBさんは、馬の上で手を離したり、後ろ向きに乗ってみたりと、自分からいろいろなことに挑戦していました。様々な活動に挑戦する中で子どもたちは「次はこんな事をしてみたい」と思うようになり、自信を持てるようになっていくのです。

 散歩から帰ってくると、馬(ロバ)に水を飲ませ、馬具をはずして、また放牧場に放します。そして子どもたちは再び厩舎内の部屋に戻り、今日の活動について振り返ります。A君は「速歩をがんばった」Bさんは「後ろ向きに乗るのをがんばった」C君は「蹄のそうじをがんばった」と話し、先生や学生からも「A君は自分でウィニーをつかまえることができた。」「Bさんは、C君と乗り替わるときに上手に乗せてあげることができた」「C君は丁寧に蹄の掃除ができた」と、子どもたちの様子についてのコメントを伝えます。このような時間を持つことにより、子どもたちは自分たちの行動を振り返り、さらに自信を深めたり、うまくいかなかったことがあればどうすればよかったかということを考える機会を得ることができます。そしてそのことが次の活動につながっていくのです。


馬が逃げて、うまくつかまえること
ができません。
(逃げろ〜)
先生に、秘密兵器(エサ)をもらい
ます。
無事につかまえることができま
した。(
つかまっちゃった・・・)
蹄のそうじするときには、先生に
手伝ってもらうこともあります。
いよいよロバに乗ります。 これから敷地内の散歩に出か
けます。
「行ってきま〜す!」 途中で乗る馬を交代するときにも、お互いに協力し合います。
「馬に乗っているのよ!」と嬉しそうに達に手を振ります。 乗り終わったら、水飲み場に連れて行きます。 しかめっ面で作っているのは・・・ 折り紙の馬でした!


個別レッスンの様子

月・木・金曜日の午前中は、13〜14歳の子どもたち6人が指導者と共にグループで馬小屋にやってきて、掃除などの作業を行います。そして1日に2人ずつ、個別で乗馬の時間を取っています。彼らは複雑な家庭環境であったり、問題行動を起こしたことがあるなど、様々な問題を抱えています。ここでの目的は、作業を通してだれかの役に立つ体験をしたり、乗馬を楽しみリラックスすることです。
 
 このグループの担当はショルトン先生で、屋内の馬場で乗るか、外に散歩に行くか、馬に乗るか、ラクダに乗るか等は、本人の希望で決定します。木曜日の午前中、D君はラクダに乗って散歩することに決めました。。放牧場から連れてくることから始め、そしてブラシがけ、蹄のそうじと馬と同じように進めていきます。D君はラクダが好きで、よく乗るとのことなので、それぞれの作業も手慣れています。
  
 準備ができたらいよいよラクダに乗ります。ラクダは、人が乗るときには座るように調教されているので、乗るのは簡単です。コブとコブとの間に薄いマットが敷かれていて、その上に座ります。そして敷地内の散歩へ。D君とショルトン先生は、散歩をしながらいろいろな話をします。普段、みんなの中では話すことができないことを、1対1で、馬(ラクダ)の上でなら話すことができると言います。そしてこのことが、内面に様々な問題を抱えている彼らにとってとても大切なことだと、ショルトン先生は言っていました。。馬(ラクダ)上カウンセリング、とも言えるかもしれません。ラクダの上でのんびりとした時間を過ごしたD君は、とてもリラックスした表情で戻ってきて、最後の手入れをして帰っていきました。


モンゴルのラクダなので、寒さには
強いらしい・・・
「引き馬」ならぬ「引きラクダ」 ブラシがけをしています。ラクダの毛はとてもふさふさしています。 蹄の裏の掃除もします。
乗るときには、きちんと座ってくれます。(もちろん、訓練が必要です) ラクダは馬よりも、特定の人との関係
を強く持つとのこと。調教されているか
らと言って、だれでも扱えるというもの
ではないそうです。
コブにつかまると、安定感がありようで、とっても気持ちよさそう・・・。
私も少し乗せてもらいました。立つ時
と座る時が少し怖かったですが、乗り心地はなかなかよかったです。


ラクダに乗ってみると・・・

 ここにいるラクダは、モンゴルから来たので寒さは大丈夫とのこと。ショルトン先生いわくは、ラクダは犬と同じように特定の人(主人)との関係を強く持つのだそう。だから馬のように調教すれば、馬を知っている人ならある程度扱えるというわけでなく、「そのラクダ」を知り、関係を作る必要があるようです。私はラクダを間近に見たり触ったりするのは初めてだったので興味津々でした。近くで見るラクダはやっぱり大きく、触るのはちょっとドキドキ。ラクダの毛は見た目よりかなり柔らかくふわふわしていました。調教がしっかりとされていて、ブラシがけや蹄のそうじなどの時は、とてもおとなしかったです。せっかくなのでお願いして乗せてもらいましたが、立ち上がるときは揺れて少し怖かったです。ラクダは側対歩(同じ側面の前後肢を出して歩く)なので、歩き出すとガタガタした揺れはありませんが、一歩一歩が大きいため、前後に大きくスライドするような感じがしました。コブとコブとの間に座るので安定感もあり、慣れてくる乗り心地もよかったです。
  
 ラファエルスハウスでは、子どもたちの希望に応じて馬、ラクダの他に、ラマも使うことがあります。(もちろん、乗るのではなく、世話をしたり散歩をしたりする)工夫次第でいろいろな動物を使うことが可能だと感じた一方で、それでもほとんどの子どもが「馬」を希望することから、馬とのふれあいを教育に生かす可能性の大きさを改めて感じました。