「子ども農場」の実践(ドイツ)

 

 


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ここでは、ドイツの「エルゼンタール子ども農場」の実践の様子について紹介します。(1997年当時)

 

仕事は遊び、遊びは仕事

<「子ども農場」とは>

 ドイツには「子ども農場(Jugentfarm)」と呼ばれる、いわば馬のいる遊び場があります。子ども農場は、全ての人に無料で開放され、子どもたちの自主性を養い、社会に対して関心と責任をもたせることを主な目的としています。ドイツ国内には300400ヶ所あり、そのうち約1/3は市政府(市町村自治体)の援助を受けながら地域の親や市民によって運営されて、残りは市政府の施設として運営されています。その中の一つである「エルゼンタール子ども農場(Jugentfarm Elsental e.V.)」はシュトゥットガルト市内から路面電車を乗り継いで約30分ほどの森の一角にあります。

 開園時間は火曜日から土曜日、午後2時から午後6時までで、門のようなものはなく自由に出入りできるようになっています。馬13頭を初めとして、ロバ、ヒツジ、ウサギ、ヤギ、アヒルが飼われており、畑では野菜が育てられています。私は1997年にエルゼンタール子ども農場を訪問しましたが、その当時、3人の専任スタッフのほかに4人の社会教育家を目指す実習生、3人のシビルサービスマン(20歳以上の男子が兵役か社会福祉かのどちらかに従事する制度で、社会福祉を選んだ若者)が働いていました。

 エルゼンタール子ども農場はベーム夫妻が今から35年前、友人の馬を敷地内で飼い始め、子どもたちが遊びにくるようになったことがきっかけで始めたそうです。それが、ドイツで最初の子ども農場だったのです。そして都市の中に子ども農場を増やそうと、1972年に「子ども農場協会」を設立し、現在それは「子ども農場と冒険遊び場協会」となってその活動を引き継いでいます。またベーム夫人が精神面で障害のある子どもたちの病院の医師と知り合いだったことから、1972年から障害のある子どもたちの乗馬も行っています。主に午前中をその時間に充て、養護学校のクラスや、親が作ったグループなど週に7グループの子どもたちが農場に来ています。身体面で障害をもっている子どもたちの場合、理学療法などの専門的知識が必要になるため、ここでは精神面で障害をもっている子どもたちを対象としています。子ども農場では「integration」を指針原則の一つに挙げており、障害をもつ子どもたちに限らず、ドイツ以外の国の人にも、また大人にも開かれた場となることを目指しています。

 

<乗馬は大人気>

 ドイツの小学校は午前中で終わり、午後2時頃から子どもたちがやってきます。近所に住んでいる子どもたち以外にも、電車に乗ってきたり、親に車で送ってもらう子どもたちもいて、1日平均約50人、多いときには70人近い子どもたちが集まるそうです。広場に集まった子どもたちに、まずスタッフの1人がその日にできることー乗馬、動物の世話、パン作り、毛糸作りなどーについて説明し、子どもたちはこれらの中から自分のしたいことを自由に選びます。もちろん、他に自分たちで遊びを作ることもできます。                

 乗馬に関しては、ここに小さいころから通っている1617歳の子どもたちがリーダーとなって進められます。まずリーダーたちは、13頭いる馬のブラシがけを、経験豊富な子とまだ慣れない子とをペアにして割り当てていきます。そして、それぞれが馬場に放されている馬をつなぎ場に連れてきて、ブラシがけを始めます。経験豊富な子が、慣れない子たちに丁寧に教えてあげますが、この馬を媒介にした“教える、教えられる”という関係が、双方の子どもたちにとってプラスになるとスタッフは言っていました。経験豊富な子どもは、教えることによって自信を得るとともに責任感も養われる。また、教えられる方の子どもも、教えてくれる年長の子どもたちを目標に頑張り、その経験がいずれ教える立場になったときに役立つのです。その間ほかの子どもたちは、広場で火を起こしたり、大縄跳びをしたり自由に遊んでいます。

 馬の準備ができると、ほとんどの子どもたちが乗馬がしたいと馬場に集まってきます。初級の子どもたちのレッスンについては、まずリーダーが手際よく乗る順番と馬を決め、それぞれの馬に年長の子どもがつき、乗り降りの補助をしたり、手綱の握り方を教えたりと安全に乗れるように気を配ります。馬場の中央にいるリーダーが指示を出しながら、歩く、止まる、といった基本的な練習をします。何回か交替をしながら初級の子どもたちの乗馬が終わると、次は中級、上級の子どもたちのレッスンの時間になります。ブラシがけを教えてあげたり、馬を引いていた子どもたちがレベル別にグループに分けられ、専任スタッフの指導によってレッスンが行われます。これらのレッスンでは軽く走ることや駆けることも含めて、自分で馬をコントロールできるようになることを目標としています。

 乗馬以外は決められたプログラムはなく、馬小屋のそうじや他の動物の世話、パン作り、毛糸作り、広場での遊びなど、午後6時の閉園まで子どもたちは思い思いのことをして過ごすことになります。

ブラシがけも子どもたちの手で行います  広場で遊んでいる子どもたちもいます

                           

              

<何をしても、何もしなくてもいい、自由な空間>

 子ども農場にはいつ来ていつ帰っても自由で、また自分の責任において何をしても、また何もしなくても自由です。乗馬だけでなく、動物にえさをあげたり、小屋を掃除したりするような仕事に子どもたちを参加させることはとても重要なことですが、それは、子どもたちにとっては、仕事であると同時に遊びでもある。乗馬が目当てでくる子どもたちが多いが、乗馬が終わってもずっとここにいることができるという環境が大切だとスタッフは言っていました。休暇中は1日中農場で過ごすことができ、週に1回は2030人の子どもたちが農場に泊まり込んだり、馬に乗ってキャンプに出かけることもあるといいます。馬との密接な関係の中で、子どもたちは様々なことを学ぶことが出来るのであろう。

 そしてここではスタッフや実習生、シビルサービスマンとともに子どもたちのリーダー的役割を果たす1617歳の少年少女たちの存在がとても大きいと感じました。この農場で育った彼らは、子どもたちの一番の理解者であるでしょうし、また彼らにとっても大きくなっても来ることのできる場所があること、そして、必要とされていることを感じることは大切なことでしょう。

たき火をしてパンを焼いています 子どもたちに毛糸作りを教える
創設者のベーム婦人